シベリウスの深淵

久々に5回もシベリウスを弾いた。日フィルとの「九州旅行」指揮は藤岡幸夫さん。大変気持ちよく弾けたし、メンバーとの交流、みなさんとの会話も楽しかった。

もう32年もこの曲弾いてる・・・
桐朋時代に「ソリストオーデイション」というものがあった。「あなたが受けるんですか?」と半ばあきれられたように江藤先生に言われ、それでも大学4年最後のチャンスと自分ながら仕込んだ。ちょうど演奏旅行中で3週間だか先生がいらっしゃらなかった。2楽章のテンポの取り方、どうやったらアダジオに聞こえるのか?カデンツの処理?とにかく頭を使い耳を使い、あらゆる録音を聞いたりピアニストと相談したりして考え尽くした。
帰ってきてオーデイションの前の日に見ていていただいた「とてもいいですよ。」
その次の日、私ごときが、と思いながらも挑戦。「感動しました」と作曲家の先生にいわれた時「え?」とびっくり。
その後9月に桐朋のオケと秋山和慶さんの指揮で初オケとの共演。

1年後のエリザベートでもこの曲を弾いた。
というかオケと弾いた経験のあるものはこのコンチェルトしかなかった。

コンクール後の嵐のようなコンサートスケジュールの中、レパートリーのなかった私はそれぞれのコンチェルトを仕込む事さえおぼつかない。そのころ思い余って小澤征爾さんに相談したことがある。
「あの・・・レパートリーを増やすのと1つの曲をじっくり何回も弾いてゆくのとどちらがよいのでしょうか?」
「それは火を見るより明らか!レパートリーを増やさなければすぐつぶれるよ」

しかしながらそういう器用なまねのできない私は一つのフレーズに引っ掛かって、先に進めない。なかなか(適当)に処理などできないのだ。

江藤先生は
「例えばリサイタルプログラムの中で今回はこれに集中しよう、と決めてやっていかないと。全部やろうとしても無理ですよ」

そうこうしているうちに時が流れ、幸いにも今またオーケストラと共演することができる。
今やヴァイオリンコンチェルトのレパートリーもほとんどこなした。
私にとってはレパートリーを増やすのには時がかかったし、例えあの優勝後何年間かで一応その曲を弾けるようになっても深みを出すまでには至らなかったと思う。

ベートーベン、ブラームス、プロコフィエフ、ストランヴィスキー、ショスタコヴィチ、モーツアルト、メンデルスゾーン、サンサーンス、チャイコフスキー、三善、武満、湯浅、バッハ、ブルッフ、グラズノフ・・・等々

それらすべてを把握した上でまたあらためてシベリウスに戻る。
いや、また向う。
その特殊性、追い続ける息の長さ、深さ、ドラマがある。
そして今やそれを迷うことなく思い切ってぶつけられる。
年を取るというのは悪くない。

2011年3月 東京にて
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