なんだか体が重い。練習しなきゃ・・・と思うけれどもなかなか腰があがらぬ。体がどうしたいのかわからないのでとにかく邪気だけ吐いてみようと思い「はあ〜」と鳩尾に両手を当てて思いきり息を吐く。何度かやっているうちに活元運動も少々出てますますくたびれて来た。というよりくたびれ感がはっきりしてきた。もう練習どころではなく寒くて寒くて、あわててソファに寝っ転がりそばにあったひざかけを掛ける。そのうちそばにあったコートもかける。セーターも、全身何やら覆われてもちっとも暖かくならない。足先が冷たい。足湯でもすればよいのだけれどそれもめんどくさい。ちょうど帰って来た娘に「ねぇお願いだから上から布団持ってきて」と頼むと「ちゃんと上に行って寝ればいいじゃない」でも動きたくない・・・ついに布団に毛布に全てにくるまっていい気分。このまま絶対動かないぞとぬくぬく。ソファにはまっているうちに、だんだん心が和らいできた。

今日は息子の誕生会だ。本当は昨日なのだが、彼の誕生日の次の日いつもベルギーは祝日。アムネステイーの日だ。その上明日は金曜日でほとんどの学校が休日となった。おかげで4連休。それでその途中の日に「ママ、お願いだからここで誕生会やってそのあとみんな泊っていってもいいでしょ?」と頼まれた。私はあさっての土曜日には日本に行かなくてはいけない。そんな引け目もあって「いいよ」と言ってしまった。しかし私は彼らが来ることはほとんど苦にならない。みんなかわいい・・

だが今はとにかく「日本に行く?」そんな長旅など想像することもできない。何しろ2階のベッドに行くことすら億劫なのだ。その上東京に着いてすぐあるリハーサルやらコンサートでヴィオリンを弾く?とは到底考えられない離れ業に思えた。パパは「そんなぎりぎりに行くなんて!」と怒っているが、なんとか最後まで家族のところにいて最短で帰ってこようとするから無理は承知の上。ぎりぎりまでレッスンして子供のパーテイーもやってその上練習しなきゃ!!とは思っていても体はあれもこれもはできない!と悲鳴をあげたわけだ。・・・とは私側の言い分。敵はそんな心を知ってか知らずか、昨日は冷えた体と「友達のうちに泊りに行くね」となんと3年連続誕生日に自分の家にいない息子にがっかり・・「せっかくの連休にパーテイーがあるから、行ってきま〜す」とおめかしして出かける娘の後ろ姿を見て何やらぽっかり穴のあいたような気分。
それに比べると熱のせいか今の私は「ぽかぽか」している。

映画に行っていた息子と友達が帰って来るにつれてついに上に上がった。それでも布団に包まれている事のなんという気持ち良さ!芯から緩む。「ママ、なんだか熱いよ」というので体温計を出してみるとなんと38度6分もある。しかし右は37度3分しかない・・これほど左右差がつくのも珍しいことだ。よく出たものだと感心する。どうりで目はしょぼしょぼ。関節も首も痛い。それでもなんと言ったらよいか・・・みんながいてがやがや笑い声が聞こえるところで横になっているのは温かい気分なのだ。このまま日本行きも中止してここにいるのも悪くないな、と1人ほくそ笑む。

1時間ほど寝たのだろう。子供たちのパーテイーの用意をしなくてはいけない。なぜか材料も用意も買い物はすべて昨日のうちに済ませてあった。娘が巻きずしを作り、私が1時間かけて鳥の唐揚げを上げ、ケーキを「初めて作った」とパパも登場。みんなで恒例蝋燭吹き消しを見て、とにかく布団だけすべて雑魚寝会場?居間に下ろさせてあとは彼らの笑い声を聞きながら寝入った。

翌日、熱も下がり、昨日はキャンセルだと思っていた予定のミーテイングもこなし、まだ少しふらふらするけれど、ずう〜っと気分がよい。この調子なら日本に行けるかな?もう一度熱が出て終わった。

翌土曜日、何事もなかったように飛行機に乗った。

全くあの熱が出ていなかったらきっとイライラがたまり、おいしくもないお酒をますます飲み、目を使って必死に本を読んでいたかもしれないと思う。

飛行機の中で面白いおばちゃんと出会った。私はめったに隣の人と会話を続けてゆくことはないのだが彼女の妙なタイミングの良さに乗せられて、リムジンバスで目的地に着くまで一緒に旅をしてきたのだ!

出会いとは思わぬところで起こるから面白い。それがまた新しい人でもまた旧知の人でも、こちらの状態が良いと新鮮に感じられる。そのためのエチケット?とも思われる自分の体の整い方に感謝だ。

ブリュッセルでも活元運動を始めた。ベテランやら初心者やら赤ちゃんやら。以前はこのような事を始めてしまうと音楽に隙が出来てしまう・・と感じていた。それに私は専門家ではない。だが9月にアメリカで飲みすぎ?と時差と冷房で体のコントロールが出来なくなった時、つくづく「ガイコクで一人で暮らしていくのは大変だ」と思った。そして生徒たちの事も思った。何かのよりどころになればこちらも嬉しい。
愉気の感覚は音程を取る時の感覚に似ている。コンマ何ミリの違いで音色も変わる。体も変わる。
おもしろいものだ。

2010年11月
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