心と体

朝ヴァイオリンを練習していると道子が「親指の爪を折った」と言って駆け込んできた。短い私の練習中に入ってくるのは珍しいことだ。
弟のところに泊りに来ていた友達と何やらぎゃあぎゃあ騒いでいる声が聞こえてはいた。

「爪を折る…」とはよほどの事だと思って見てみると、折れたというよりは伸ばしていた爪が引っ掛かって少々上にそれた状態。後で血がにじんでいたから損傷はあったのだろう。

明日トライアスロンの大会がある。
「でもほら、手はつけるし、自転車もこげるし負担はかからない」と一生懸命弁明する。

よほど緊張していたのだと思う。

あとで整体の先生のまねして、昨日も妊娠中の友達ルチアに愉気をした要領で「はい、どうぞ」と絨毯の上にいざなうと「ママやってくれるの?」と嬉しそうに横になった。「愉気」とは手当て・・なのだが、そこに気を集中させてこちらの感覚をとぎすます。悪いところ、つっかえているところにおのずから手が行くという野口整体の操法だ。
最初「本当に効くのかなあ〜」と半信半疑だった私も子供2人育ててみて納得、「う〜ん、効く!」しかし私は整体の先生でもないし、手任せ状態なのでこれが子供とかよっぽど近い知り合いでなかったらやらない。責任も持てないし、第一わからない。自分の子だから・・とは勝手極まりない、いわば「自己満足」の世界なのだが、それでこちらもいい気分になれるのだから全く愉気とはいいものだ。

手を当てていく、一側(いっそく:背骨から指で一本のところ、背骨の脇すぐの筋のこと)、右側?と分かったような顔してはじく。「痛い!」と道子、そのうち背骨…腰椎…そういえば1番の上がつまらないほうがいいと金子先生言ってたなあ・・・ふと思い出して。そのうち太もも、目と関係あるかなあ・・この頃彼女は眼が見えにくいとしきりに言う。この間春に日本に行ってロイ先生の操法のとき「思春期に多い。骨盤の動きと関係ある」と言われた。その後目の周りの体操、こめかみ、耳を引っ張る・・などやっているがなかなか・・太ももと目…は、野口先生が確かダンさんが子供のころ大腿骨を折って?それを先生が直していく過程で見つけた?という昭子夫人の文章を昔読んだ事を思い出した。

膝のうしろ?私自身もやってもらってとても気もち良かった覚えがある。
ここも何本かの筋が走っているように感じる。なぞっていって足首、両方を手で囲んで温めていたらスースーと寝息が聞こえてきた。
しめた!これで緩むだろう。

「怪我・・・とは我を怪しむだよ・」と説明してみたが、漢字も知らなければ「怪しむ」の意味もいまいち通じたかどうか。しかし、親指の怪我ですこし「怪しむ」ことを体感したかもしれない。

明日は友達の車で応援に行く。願わくば雪が降ったり!?雨が降ったりしないといいなあ〜〜泳いだ後、すぐTシャツ1枚はおって自転車で15キロなんて「いけません!」と私がいくら言ったところで、もう通用しない年代だし、そういう世界に入ったのだ。
すんなり「がんばれ!」と言えなかった分、今の愉気は私にとっても十分「自己満足」できる送り出し方になった。

「練習だと普通にできるのに大会だとなんでこんなにストレスがあるんだろう・・」という彼女に「いつもと同じにやればいい。それだけ」と言えるのもうれしい事だ。これだけはいつも「一回限りの音楽会」をやっているその怖さを知っている自信がある!?
「そのために今まで練習してきたでしょ?」

と人の事言ってないでそろそろ私自身もう少し練習しないとそれこそ次の音楽会「やばい!」かも。

2010年5月8日 ブリュッセルにて
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