好奇心

ちょっと行き詰ってどう弾いたらよいか、わからなくなることがある。
年のせい?ではないのだが、練習もだんだん「いかに自分を使えるか?」にかかってくる。しかし、性格上なかなか「こうせねば」では、重たい腰はあがらぬものだ。

メンデルスゾーンのコンチェルト。この名曲中の名曲を今年は生誕200年ということもあって弾く機会が多い。
かといって「だからうまくいく」ものではない。
特にこのところ数年間、なぜか弾く機会の少なかった私にとって、また「再挑戦」ともなった。

なかなか「過去」の古い角質を取りきれない、新鮮さが出てこない。ただ単に「弾く」ことがむずかしい! 色々悩んでいた折に今度6月フルートの有田正弘さんの指揮するバロックオケとメンコンをやってみないか、というお話をいただいた。有田さんは私が学生時代からもう『古楽器』に興味を持たれベルギー・オランダに留学された「はしり」。そのころ近くに住んでいらして、よく道で「こんにちは」と声を交わした。仲睦まじく歩かれる千代子夫人との姿もとても「すてき」! とあるご縁で声をかけてくださったのは良いものの、私は内心「本当にバロックのオケとピッチも違い、ガット弦で、その当時の弓を使って・・・この私が一緒に弾けるのだろうか?」と不安だった。
お引き受けする前に一度お会いして話を聞いてみよう・・・と思い、電話すると快く松の内の明けた晴天の日に自宅にうかがうことになった。

おそるおそる430に調律されているピアノフォルテにさわり、弾いてみる・・・ヴァイオリンも弦を下げて調弦。さて? 「あ!できる、できる!」 絶対音感のある私は実は「移動ド」というのがものすごく難しいのだ。そのかわりどんな「工事音」もピッチを言い当てられるけれど。
でも大丈夫! 「ああ・・よかった・・」と胸をなでおろしそれからはメンデルスゾーン手書きの初稿の楽譜。また第一刷めの楽譜。その翌年直された第2稿と目を通して会話が弾んだ。

まるで学生時代に戻ったような新鮮さと驚きとがある。いろいろ次から次へと教えてもらいたい事柄が出てくる。
「ねえ。ビブラートかけてもいいの?」「いいよ!」 「解釈でこれをやっちゃいけないってことないの?」「みんなそいういう偏見を持つんだけど、僕たちはとにかく音楽がしたいんだよ、楽しくね」 それには私も大賛成!そのための研究と努力・・・なら好んでこの身ササゲマス・・・ と、またまた「ササゲマス」のバッハ作曲「音楽の捧げもの」のCDが目についた。
「昔ゆず子とこの話したじゃない」 「・・・そうだっけ?覚えてない。スミマセン・・・」 最後は「いやあ、なんといってもやはり好奇心だよねえ・・・」で話がまとまった!それだけは学生時代から変わらぬ姿勢だからだ。

そういうわけで、今年はこの「東京バッハ・モーツアルトプレイヤズ改まって、クラシック。プレイヤーズ」になる有田オケとの共演をやらせてもらうことにした。場所は池袋の芸術劇場。

そして、またまた好奇心の塊とそれを今も見事に花咲かせている方々との夢の「カルテット」がある。
「死ぬまでにこれをやらない手はない!」とついに決断して、ベートーベンの弦楽四重奏にいどむ。それも後期の作品130。メンバーは私とセカンドヴァイオリン・山口裕之さん。ヴィオラ・川崎和憲さん。チェロ・山崎伸子さんという昔学生時代に多いに室内楽をやった先輩たち!彼らはもう何度もこの名曲をやりつくし私が覚悟して「お願い」した強力メンバーだ。場所はJTアートホール。

2つとも6月の予定。
いやはや今年はなにやら新しいことが起こる。それもこれも、みな「好奇心」があって良かった!というわけだ。空想が膨らむ事、これが何よりの自分を使うための「武器」「ときめき」になるのだから。

2009年1月 東京にて
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