生と死と

樹木希林さんが亡くなった。以前から大好きな生き方をなさっていた方だ。
私自身白髪にしたのも彼女の影響もあったかもしれない。
「もう重たくて絹しか着れないの・・」とおっしゃった様子もよくわかる。
と言ってもまだティーシャツが多い私だが・・

8月25日シオンでテイボール・ヴァルガ・ジュニアコンクールの審査員をした。
パヴェル・ヴェルニコフに招待をされ、ギドン・クレメル、アナ・チュマチェンコ、スヴェトリン・ルセフ、ミラスロヴァ・コトロヴィッチ、キョンス・リー、
コンクールで13-17歳までの若い才能に出会った。
このコンクールでは私達審査員も候補者と一緒に演奏するのだという。
セミファイナルではサラサーテのナヴァラを。本選ではバッハのドッペルコンチェルトの2楽章を。私は本選を担当した。オケはクレメラータ・バルチカ。クレメルの室内オケだ。彼らはまた「クレメルと2人の道化師Con Amore」と題した素敵なショーも見せて、聴かせてくれた。心温まるメッセージだった。
他にもいろいろ演奏会もあり多忙な1週間だったのだが、二日目の26日に妹から電話があって「母が危ない」という。今年90歳になった彼女にこの夏の暑さは堪えたのだろう。数日前から食べ物はおろか水も受け付けず、眠ってばかりいるという。老衰・・平穏死。
私達は本人も含めて延命は望んでいない。眠るようにおだやかに・・・逝ければ一番幸せだと思うからだ。
しかしながら初めて「これは母親を失うかもしれない・・」と思った時やはり対応はそうおだやかではない。「お願いだから生きてて!」となる。
スイスから日本までは1日はかかる。コンクールの審査をほっぽり出して帰るのか?迷いつつも、妹から毎日の報告がある。点滴が効いたらしい。脱水症状だったらしい・・などの情報が届き、なんとか持った。
あとは9月3日の出発の日まで「お願いだから!!」

果たして4日に着くと施設に直行した私を半分眠りながら迎えた母は「ゆずこちゃん!!」
「これ夢?ここどこ?」
もうあの世なのかと思ったらしい。「まだここにいるよ。ほら、みんないるでしょ?」

おかげ様で危機を脱した。
その後みるみる元気になり、ゼリー、プリン、「とにかく召し上がりたいものを召しあがりたいときに」と施設の人も全面協力してくれる。アイスクリームが大好きな母は次の日ペロリとアイスクリーム自分で食べた!妹の開いた口がふさがらない。
近頃では「おせんべいをバリバリ食べたい」というので持っていったらそれも本当にバリバリ食べた。

ずっと合唱をやっていた母は今でもコーラスの仲間と友達が歌いに来てくれる。だんだん音程は怪しくなったものの声を出すことは実に良い。花、夏の思い出、からたちの花、故郷、野ばら、「今度第九ね」何しろ歌詞は覚えてる彼女たちコーラス仲間だ。なかなか伴奏を付けてそれを普通の歌のように歌うわけにはいかず、手元にあったアヴェヴェルム・コルプスを歌う。
思わず詰まってしまった・・・うっと来て涙を悟られないよう声を小さくした。
モーツアルトはあの世とこの世をつないでしまった!
樹木希林さんが言ってらした「この世とあの世は地続き」に賛同する。
音楽では既にもう昔からそれが書かれている。
合掌
                       2018年9月東京















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