4惑星

昔からうちの家族はバラバラな事が多かった。
仕事上旅行の多い私。
シャルルマーニュオーケストラの指揮者をやっていた旦那、
子供たち二人はブリュッセルではテレーズという近所のおばさんに助けられて育った。私が不在の間モカという犬を連れて泊まりに来てくれた。彼女が面倒を見ていた近所の子供たちと一緒に兄弟の様に育った彼らは今でも物凄く仲がいい。それぞれ医者になり、栄養士になり、グラフィストになり、ジャーナリストになりと違う人生を送っているが年に何回かはテレーズと一緒にご飯食べる。彼らの休日だったアルデンヌのタンタンジュには今でも夏休み皆どうにか時間をやりくりして1週間集まる。
20歳を過ぎれば生き方も方向も違ってくる。しかしこの「核」の部分の重要さと安心感は彼らの人生の根っこだ。
本当に感謝している。

子供たちは2年前二人とも一度は家を出て「空の巣」を味わった私だった。
しかし彼らは3か月、半年の一人暮らしをサッサと辞めてマストリヒトから、ロンドンから帰ってきた。「私ベルギー好き」と道子。「ちょっとまだ早かった」と息子。実家の有難さを実感したのだろう。なんといっても私自身60近くになるのにいまだに日本の実家にしょっちゅう戻る。うれしいやら大変やらというのが本音だ。
旦那と2人分だったはずの食事は子供二人にその友達と時には6人、それに昨年末から飼い始めた柴犬君ラッキーも登場してにぎやかだ。
子供たちも大人になったので4人いれば何とか世話をしていけるだろう・・という約束でやってきた柴犬君は甘やかされ、だれかがいなくなると寂しくて仕方ない・・・ヴァイオリンを弾いているときは許してもらうがそのあとメールチェックなどしようものなら「ワン」という。「こっち向いて」
通常パパが散歩する。

さて・・秋になり学校も始まった。本来ならば皆忙しく出たり入ったり・・なのだが今年はちょっと様相が違う。

道子はラカンブル美術大学院を卒業、そのあと夏中バイトしてお金をため今日本に1か月滞在中だ。
おばあちゃんと会って、それから友達と羽黒山から青森、十和田湖。京都から倉敷、広島、関西と大きなリュックを背負い、ジャパンレールパスを使っての大旅行中だ。

パパは今メキシコだ。降ってわいた指揮の依頼を2日で用意して飛んで行ってしまった!ベルギーのシャルルマーニュオケが財政難で止めざるを得なくなり、そのあと彼は3年余り失業中だった。50歳を過ぎるとマクドナルドも雇ってくれない。息子が次々とアルバイトを見つけてくる中電話して申込書を書いて、ありとあらゆる職業に挑戦しようとしていたがうまくいかない。見ている方も大変だがやはり本人が一番つらい。
そんな中昔の縁で6月にメキシコ・ケレタロという街のオーケストラからお呼びがかかった。57歳になってこれから出陣というのは、さび付いた昔とった杵柄を・・だがやはり大変だっただろう。うまくいったようだ。オーケストラからもラブコールが絶えなかった。
今回はその成果が認められ、病気になった指揮者の代わりに「来てくれないか」と打診が来たのが火曜日。金曜日には機上の人となった。

夏休み中日本にいた息子左門、ブリュッセルに帰ってきてもいつかない、9月はまず友達と南仏にでかけ、そのあとまた他の子とギリシャへ!家族全員の羨望のまなざしの中「もうバカンスはいいや」などという口をきく。もちろん稼がなくてはいけないのでアイスクリーム屋でバイトして腱鞘炎にまでなった・・・あの職業は大変。冷たいものを一日多い時で1000個以上手首を使ってかきとらなくてはいけない・・・以前友人もアイスクリーム屋をやっていて「いつも手が痛い」とこぼしていたのを思い出す。
彼は10月から3つ目の大学KU Leuvanに通っている。英語で経済の勉強をするそうだ。前の2つの大学はやめて帰ってきた。ベルギーでは入学金がないのでこういう事が出来るのだ!
周囲の批判やおろおろ見ているのに対し、私は若いうちに色々経験した方が良い、迷うなら今だ。合わない勉強、生き方はしない方が良いと思っている。
今度はやっと落ち着いて勉強している。それに実家にいればスポーツも思う存分、サッカーに水球にとこれも余り家にはいない。
しかし今回は彼独りが犬と蜜月状態でお留守番だ。

なぜなら私は今パリでルイサダとの演奏会をやっているから!

奇しくも皆13日の金曜日に出かける事になった。私はブリュッセルからパリ行きの電車タリスで時間を変えたら1等車のチケットで「席ありません」と2等車になったばかりか「席保証できず」のチケットでドアのところの椅子に座る羽目になった。この頃電車には慣れているとは言うものの、ヴァイオリン抱えて小さな折り畳み椅子・・は東京の満員電車で座る事が出来た様な感覚だった。
着いたパリのホテルで夜テレビをつけるとNHKインターナショナルがあった。その日の特集は「羽黒山」なんと今ちょうど道子がいるところだ!
誰か天上の方が画策してくれたのかな?

昔から手探りの旅を続け惑星の様につかず離れずの家族だった。
これほど皆一度に離れる事も珍しい。

皆それぞれうまくいきますよう祈ってます。
        2017年10月パリ





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