緩む
昨年の楽器押収事件以来、弁護士や税関との議論、もちろんガイコク語、から始まって慣れない楽器、ストラディヴァリウスとはいえ、全く最初は鳴ってくれなかった楽器との格闘から融合、そして自分の楽器に戻った時の変化・・・5種の体が3種になりそのあと捻じれたまま年を越した。
肩に入った力が抜けない・・とロイ先生。
今年は胸椎1番を使ったんですねえ~と金子先生。
年が明け・・・
親子3世代そろったお正月はのんびりと野川ベリを散策した。本当はそのあとの福袋が楽しみな子供たちだったが、鷺が飛び野鳥が舞う真っ青な青空のお正月はまさに日本風景の原点だ。おいしい空気を思う存分吸い込んだ。
3日の活元会のあとヴァイオリンを弾いた。
朝道場で音を確かめたり、立ち位置を決めたりした時は、なんだか寒くてそれに乾燥していた。台の上に立つにも足の裏が冷たくて畳の上にそのまま立つことにした。
みなさんが朝から活気づいて準備をしていらっしゃる。いかにもお正月の雰囲気だ。そこで独りで思う存分音を出し「5分で終わります」とか言っていた試演も活元運動のデモンストレーションの準備の方々をお待たせしてしまった。
一度帰って・・・
夕方5時ごろ道場に着く。活元会はちょうど最後の呼吸合わせをしているところだった。
そお~っと自分の控室に入る。だいぶ暖かくなっていて助かった。なにしろここでず~っと待つ。着替えもするので、楽屋の居心地の良さも大事なのだ。棚に並べられたレコードや置いてある木の板やら仕切りやら、私が小さかった時家にあったものが並んでいるのとよく似ている。懐かしい気分になった。
みなさんは活元運動を終えられて上でお茶。そのおしゃべりが鳥のさえずりのように聞こえてくる。エネルギーに満ちた元気な声。こちらまで栄養をもらっているようだ。
出番が来る。ロイ先生がご紹介くださる。家族・・の話をなさっていて私は実はその日家の誰もが来てくれなかった事に頭に来ていた。諸々の事情でみな無理な事はわかっていてもだ。
さて弾き出す。
バッハの3番のソロソナタは最初が実に難しい。最初の何秒間かを無事、つつがなく通過できるとやれやれ・・と言うところだ。やっと音楽に入れるみたいな感じ?
「フーガ」一本のヴァイオリンから大宇宙を弾き出すバッハの対位法と和声は全くすごいものだ。この曲たちをバッハはケーテンの小さな教会で独りで書いたという。彼の頭の中にあった大宇宙に感謝だ。知能と哲学と遊びと・・・全て入っている。
それが終わると最も美しい「ラルゴ」。学生時代バッハと言えば厳格な顔を思い出し(歌心)というよりは「いかにきちんと弾くか」ばかりを追求しがちになった私に、恩師江藤俊哉先生は「バッハはメロデイーの作曲家ですよ」とおっしゃった。
彼の教えの多々なる部分同様、20年30年経った今、良くわかる。
最後は「アレグロアッサイ」の軽快な楽章で幕を閉じる。
終わったあと・・・
さてどうしようか?
アンコールに「ガボット」を弾いた。
また拍手が続く
今度はこのとこ弾いてもいない!「アンダンテ」を弾いた。
まだまだ・・・
なんだか一応音楽会なのでこの辺でやめとこう・・と思った私がバカだったな!
野口先生が最初活元運動を始められた時3日間止まらなかったという・・その本家本元で弾かせていただいているのだから時間など気にする必要なかった。
練習はしていなかったけれどずっとずっとあとからあとから出てくるフレーズを弾きたかったな!
まそういう(切り方)もまた良いかもしれない。
弾いていて感じたこと。
いつも肩に力が入る、胸椎1番どころか上胸部はいつも硬い私はブリッジと呼ばれる金属や木でできている肩当てを使っていないため楽器がどうしても下がる傾向にある。昔のヴァイオリニストはそんなもの使っていないのだし、私もそのように教わってきた。しかしながら、今生徒たちを教えていて、弾き始めてからずっとその「ブリッジ」を使ってしか弾いたことのない人達に「取りなさい」というのはかなり大変なのだ。まるで入れ歯をしていた人に「やめろ」と言って食させるようなところもある。
体の使い方は年々変わる。それが当たり前。
特に指揮者ではない楽器奏者はそうしていかなければ弾き続けることはできない。
大家と呼ばれる人たちの姿勢は、みなおのずから「力の入れ方」も「抜き方」もよ~く知っている格好をしている。上下と言われる体癖のピアニストはそのように上を向き足を動かし・・捻じれの人はうんと地に足を据え。
私はお正月活元会のあと、集中力も遊び心もある音楽には素人かもしれないけれど「最高の聴衆」の前で自分の「音楽」と「活元」の世界が一つになり、また気が付くと楽器も下がっていないことに驚いた。
緩み、のないところに集中力はない。
思いっきりあくびをして活元・・元に戻ってゼロになった時「さあ、やるぞお!」と力も湧いてくる。
私はこの演奏を通して思いっきり緩んだ気がした。
ありがとうございました!!
2013年1月末ブリュッセルにて