ワインと料理と音楽の関係

8月初め、ブリュッセルは夏休みで閉めているレストランがほとんどだ。その中、日本人シェフの一流フレンチ、レストラン・イナダは店を開けていた。
ず~っと昔一度だけ大変おいしいジビエ料理をいただいた事のあるこの店。
今回は友人に誘われて足を運ぶことになった。

柔和に迎えてくださる稲田さんは私のことを覚えていてくださった。
そして出てくるお料理の数々。

今まで知らなかったのが不思議なぐらい。こんなおいしいフレンチ、「ミシュランの星付きでもないよねえ~」と言いながら友人とふたり、まぐろのタルタルを味わう。いい具合にちょっとわさび、ちょっとオイル・・

そしてまた何気なく出されてくるワインとの相性もぴったり!viré-clesséブルゴーニュのシャルドネだ。

次の焼き魚デイッシュでは「Autrement」という珍しいJuraのBioワイン。有機ワイン、Juraと言えばスイスの近くの??ワインを語る時に出てくる(白桃)(ナッツ)(森)などの言葉に対していえば完全ブドウの味しかしない。

冷やして飲んでいたのがだんだん温まってきた。

次はお肉料理、なんとそのままこれでOK

いやあ~舌鼓を打った後の胃の調子も重くない。なぜならほとんどバターこってりといったソースがかかっていないからだ。

その後は週一回、ブリュッセルにいる時は何かの口実をつけて通っている。

その度に出てくるお料理が違い、またワインが違うのだ。ほとんど合うのだがたまに最初に口にするにはびっくりするものがある。

たとえばロワール地方の[Domaine de Collier]最初口にすると「え?」と思う。何やらキツイのだ。

しかしながらそれが[いわしのサラダ、鰺のタルタル(要するに鰺のたたき)]といった青魚と合うと一転する。なんというマッチだろうか。フランス語では[ça se marrie bien]結婚に例えて相性がいいといった言い方をする。

ことワインに関してはご自分の肝臓も何とやら・・といった勢いの真剣勝負の友達はまずまず香りをかぐ・・というよりもう少し動物的な(におい)をかぐといった感じだ。、それから口の中で「音響を聞くように」味を「膨らませて」それから喉を通す。

ソムリエの言い方にもいろいろある。「これは白桃とアプリコットの味に最後に苦みが・・・」という場合もあれば「これはどこどこでブドウの種類はどれどれで誰それが作ってます。」
知っている人にはこちらの方がよっぽど説得力がある。

造り手によって味がこれほどまでに変わるとは、私も知らなかった!

以来勢いで飲んでいたワインの最初の一口は真剣勝負になった。
ワイン屋さんめぐりも始まった。それも人それぞれの言い方、勧め方をするものだ。

ここまでワインにのめり込んだ末に、昨日はついに白の大宴会、プラス珍しい赤を持ってきていただいてうちで試飲会となった。といってもただワインを飲むわけにもいかずそれに合う料理・・・

思えばそうやってこの「奥深いワインの世界」にも入って行ったのを思い出した。私が好きな南の方のワインRoussillon の造り手がレストランにたまたま来ていて、それぞれのワインに合った料理を作る、という日に「たまたま」居合わせた事が目を開くきっかけになった。ちょっとした変化から今やトニック(1度)、ドミナント(和声の5度)という和声に置き換えれば全く相対するぐらいの違いを、どうやったらうまく聞かせられるか・・ならぬ口に合うか・・・までになってきた!

ワインの選び方とその飲む順番はお料理のメニューともまた音楽でいえばリサイタルの選曲にも似ている。これで成功の半分は決まる。どんなに練習していても{どんなにおいしいワインでも、どんなに凝った料理でも}その組み合わせ、順番を間違うとお互いの魅力を減衰する事になりかねない。逆にそんなにすごくないものでも組み合わせによって生きる曲、料理、ワインがあるのだ。最初は「口当たりが良い」こと、それから「いつも新鮮な驚きがある」こと。空を浮いた状態になったら着地点がほしいこと・・すべて人間の感性にそぐった物、作品、お料理、ワインと時間の流れのなせる技にある。

そのうえ演奏と同じように「やってみなければわからない」(開けてみなければわからない)事も同じだ!演奏家が毎回同じように弾くものでもないと同様、ボトルに詰まって年月を経てきたその時の変化がある時コルクを開けられて(花開く)時もあれば(まだ閉まっている)場合もある。

だからおもしろい!

昨日の一例
Pichon Condrieu.2009豊潤なアペリテイフになる。高貴な白ワイン
それから400キロぐらい北上してロワール(Saumur blanc)のDomaine du Collier 2007元々赤、clos Rougeard 2006 (Foucault作)の素晴らしさに感激した私に同系統の「白」として紹介されたもの。
最後の着地点、和声でいえばトニック(1度)の王道でViré-Clessé domaine Valette 2006

最初のCondrieu はソロ、ほとんどオリーブとちょっとチーズ系デイップのみ。
Collierに行ったあたりから「鱈のパピヨット」下味をつけた鱈にトマト、マッシュルーム、レモン、デイルをアルミホイルで包んでオーブン。ほとんど油は使わず。
Viré-Clesséに行く人も何人かいる。まだ[空を飛んでいたい~~]と言う人はコリエで継続、[着地したい]人はヴィレークレッセに行く。
この順番を間違ったら双方強いワインだけに全く口に合わないことになっただろう。ワイン伯爵に感謝!
肉料理はオーソブッコ、オーブンでことこと土鍋に入れて数時間、とろけそうに柔らかくなった肉、そこに出てきたのが
Cote Rotie
Cotes de Phoneのワインだ。
そのあと今シーズンのチーズ、Vacherin をあたためて、chevre charantais、ちょっと辛みがある、という言い方をする味のキツイ、でもおいしいヤギのチーズ、それに最後にトリュフ入りチーズ・・極上の甘みがある。

おいしかった~~

おいしい料理とおいしい会話。なんていい仲間なんだろう・・・家族も含めてみな大満足。

生きてて良かったと思える瞬間!

一瞬にして消えゆく料理は音と同じだ。

仕込みの大変さ、それをわからせずペロリといく。

さて次は何を作ろうかともう頭の中は料理のアイデイアでいっぱい。

幸せ気分!

2011年11月6日 ブリュッセル
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