つながってゆくもの

最近、娘と二人でローマに行ってきた。カーナバルのバカンスに友だちの家族に誘われ、さっそうとスキーに出かけた息子に対して「いいよ、全然平気」と言う娘。でもなんだか私も11月以来のヘビースケジュールが一応終わり、やれやれというところ。うるさい男どもを置いて「じゃあローマ行こう!!ヴァチカン見にいこう」と思い立ったのが旅立つ2日前のこと。たまっていたマイルを使えば飛行機もただ・・(実際は税金がかかるがこれもマイルで払える)うまくいく時はひょんひょんと調子よく決まるもので、ホテルもヴァチカンから徒歩3分。ヴァチカン美術館のオンライン予約もフランス語ガイド付きが、ちょうど良い時間に見つかり・・

とまたまた機上の人となった!

ヴァイオリンもない、荷物もない旅なんて!!ハンドバッグ一つで出かける何という気楽さ。それに娘とツーショットなんて考えたこともなかった!

・・・・とローマまでは良かった・・・が、飛行場では来るはずの「ホテルからのドライバー」はいくら待っても現れず・・電話は通じず・・・電車は「ストライキです」
はあ〜そうだった〜〜ここはイタリア・・・期待しても無駄・・と心に言い聞かせ・・

しかしながら、その後の滞在はタクシードライバーもレストランの対応もみな親切、無駄がない。ぼられたこともなく・・・予約しないと「絶対に場所がない」レストランの実情も美術館の入れなさ・・も含めて良い経験になった。

ヴァチカン・・・・この2000年に渡るカトリックの総本山は、その法王の名も連ねた大理石の壁をみるだけでもすごいものだ。エジプトからやってきた「オベリスク」が「数々の悲惨なキリスト教の歴史を見てきた証です」とあったが、まったくエジプト、ギリシャ・・みな「すぐ近い」地中海文明なのだ。
「ギリシャ語じゃなくてラテン語続けてれば良かった・・」と言う娘にもことあるごとに「ほら、これはギリシャの神様アポロン、これはソクラテス、ピタゴラス、ギリシャの哲人」と言って聞かせた。歴史の「流れ」を見る思いだ。

大聖堂の中、いたるところに「チャペル」がある。歴代の法王の中でも「有名」な人たちのそれもデスマスクをかたどった?ご遺体(本物はきっとお墓の中でしょう)の上それぞれにものすごい装飾の限りを施されて陳列されている。名前はとても覚えきれる物ではない。
入ってすぐ右側、ガラスケースの中にミケランジェロ24歳の時に制作した「ピエタ像」の彫刻がある。聖母の顔が若い。唯一ミケランジェロのサインがある・・キリストの表情は残念ながらほとんど見えない。

イヤフォーンの音声ガイドがあるおかげで聞きながら進むことができる。あらゆる国の言葉のガイドさん達が一斉に大聖堂の中でしゃべったら静謐どころではない、大変な事になるだろう!

入って真ん中ほど・・左手に「カノッサのマチルダ」のチャペルがある。この大聖堂に納められている3人の女性の一人・・・

実はここに行き着くまでが今回のタイトル・・「つながっていくもの」なのだ。

ずいぶん昔に読んだ本でケン・フォレットの「針の眼」という推理小説があった。ドイツのスパイとその最後イギリスの島でそこに住む主婦が彼をとらえることになるのだが、そのおもしろいこと!!私は推理小説、スパイもの・・は片時も離したことがない。そのくらい読んでる私でもこの小説のおもしろさは今だに忘れられない。2度読みした覚えがある。

その記憶があったので、昨年ケン・フォレットという名前に引かれて読んだ「大聖堂」・・にハマった!!上下2巻、又追加の上下2巻。全4巻をあっという間に読んだ。イギリスの中世、教会が作られる話・・・庶民の様子、生活、自然・・・森と街、信仰感、そして主人公たちの思想・・・まるでタイムスリップして彼らと一緒に生きているような錯覚に陥った。

秋に風邪を引いて・・・寝床で眼を使わずじっとしていればよい物を「このときこそ!」と読み始めたのが「待ち望まれしもの。The expected one」そこでカノッサのマチルド・・グレゴリア大帝・・・そしてまた続編で女主人公が「待ち望まれしもの」でヴァチカン・・・シャルトル寺院・・・と拡がってきたのだ。

推理小説にうってつけ・・・のようなヴァチカンの置かれている状況は(と言ったら信者の皆様には顰蹙を買うだろうけれど)もちろんゴッドファーザーの映画(これも最近見たけどすごかったな〜〜)。ダヴィンチコード・・・と庶民にもわかりやすいおもしろさで興味をそそる。「シャルトル」は昔からあこがれて行ったものだが今回又興味がでてきた。というのもヴァチカンには「ステンドグラスがない!」事からだった。もちろんあんなにたくさんのミケランジェロの絵があっては窓がない方がよいのだが・・・

【ヴァチカン クーポール内部、ミケランジェロ80歳の作品(完成は見ていない)】
【クーポールからさらに150段上った上】

翌日システィーナ礼拝堂では予約で取ったフランス語のガイドさんの説明が大変わかりやすかった。おもしろくて、礼拝堂に入るまでに、すでにものすごい量の美術品、歴史的なもので「もういっぱい!」
実際後半になるとなぜか「ベンチ」があるコーナーが現れ、グループの半分ぐらいは座ってた!我々の集中力も考えられてよく作られていると感心する。
エジプト時代のモザイクの床、「毎日2万人の人がここヴァチカン美術館を訪れますが、紀元前にできたこのモザイクはそのぐらい踏まれてもまだ健在です」本当にすごいことだと思う。
アポロンの「健康美」を求めた当時の彫刻。おなかなど出ていない今でいう「筋肉質」良しとするダイエットの方向がもうここにある??ぽっこりおなかが出ている中国の「大人」のイメージとは大違いだ!
各法王のエンブレム、当時の地図、まやかしの絵・・本当にレリーフにしか見えないのだが完璧に平面に描かれている・・・そのあと「近代の絵画のコーナー」に入る。ここにもピカソ、ゴッホ、シャガール、型染めで有名な版画家の渡辺禎雄さんの作品あり・・下手な美術館を見るよりよっぽど充実している。

とここまでで2時間、もうたっぷり美術に浸かった・・と思うところで「礼拝堂」に入る。ここまでで「ガイド」もおしまい、私語禁止。イヤフォーンも回収されてたくさんの人がいるのだけれど「し〜ん」と静謐な空気が漂う・・

というよりこの「部屋」に入ったときその「暗さ」の中に見る絵の具のきらびやかではない、しかしほんもののみが持つ「実在」に私は鳥肌が立った。目が慣れるごとに絵や本で見知っている顔・・がよく見えてくる。ちょっと前に聞いた説明の「物語」本当にあるある!!
しかしこの「天井」を見ているだけでも大変なのに、24歳の折800メートルの平面を4年間で仕上げたというミケランジェロ・・・すごいなあ〜

その後何年かして「最後の審判」が書かれたという。ここではイエスはアポロンのような肉体を持つ。健康美だ。上は天国、下は地獄、地獄に落ちて行く人、引っ張り上げられる人、いろいろな聖人たち、聖ペテロはいつも天国の「鍵」を持っている。天国にも「門」があって「鍵」がいるなんていうのが全く西洋風発想だとつくづく思う・・・

一番感じたことは「なんて気ままに自由自在に描いているんだろう・・」と言うことだ。
全人性を通してそんな人柄だったのかなあ`とさっき目にしたラファエロが描いた絵を思い出す。ミケランジェロは考え込むようにしながら何か書き付けている。

【キリストと聖人たち。
下斜め左で手をついてなにやら書き留めているのがミケランジェロ!】
【ミケランジェロ】

その脇でユークリットは何か人々に説き、反対側ではピタゴラスが何かを書き付けてる・・・

【ユークリッドと右上に黒い帽子をかぶっているのが
この絵の制作者ラファエロ(サインの代わり)】

夢中になっているギリシャの哲人たち・・・

【ピタゴラス】

以前ヴァイオリニスト、メニューヒンがここで「シャコンヌ」を弾いたという。
今でも次期法王を選ぶ際、僧侶たちがここに閉じこもって会議をする。「決まれば白い煙」が煙突からでるのは有名な話だ。

キリストも聖人もギリシャもローマも全部一緒。庶民も女も地球ができるところも人間が作られるところも全部一緒。
「いいなあ〜〜この勢い!!」それがこのシスティーナ礼拝堂の実在なのだと思った。

さて今度は??

窓のないヴァチカンを堪能したから「窓のある」シャルトルの青を見に行くのも良いなあ〜〜

何時の日になるかわからないけど、興味があるものはつながってゆく・・
まさに今回の「遭遇」のように!
止まってもいい。いつか道は開ける。
そんなことを確認させるローマ旅行だった。

2010年2月25日 ブリュッセルにて
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