年の瀬

風邪の効用、堀田善衛さんの本とともに。

昨日は今年最後のマストリヒト行きだった。あいにくの雨に風、その上冬至直前で朝7時半は真っ暗だ。覚悟して家を出る。
気温は比較的高い、10度近くある。
これがくせものだった・・・
家の中が暖かいのでつい外に出ても大丈夫な気がして軽装で出かけてしまったのだ。
一日冷えたぐらいでは大丈夫だろうとたかをくくっていたが駅のプラットフォームの待ち時間、マース川を渡る風はだんだん寒くなり、ついにセーター購入(言い訳!)
汗かいて学校に着きまた着替えてレッスン。
なぜかマストリヒトの学校で教えていると落ち着く。

帰りも早足で駅まで歩き、さすがにくたびれてきたブリュッセル北駅ぐらいからなんだか様子がおかしい・・・そう言えば犬ラッキーは昨日夜中に具合悪くて何度外に出たか!そこでも冷えたかな?
帰って早々と床に就くがなかなか緩まない。
12時ごろ息子がバイトから帰ってきた。
「ねえねえ、足の指引っ張って」
中毒状態、あるいは熱を出し切るにはこれがいい。
そして指の間をやってもらうと・・
痛い!!
飛び上がるほどの痛みが左3,4指間、まさに冷え!その上4,5間も縮まっている。
そこを揉んでもらって緩んだのか。また今日は犬のお腹も治ったようで眠りに着くことができた。

翌日、今朝はそれでも声はがらがら、目はしょぼしょぼ、足湯して指の間を揉む。まだ元気がない・・・
クリスマスも近いので買い物にも出かけなくてはならぬが、とても人混みに出る元気はない。
練習のかわりに活元運動。
今日は冬至でゆず湯だという。ゆずは邪気を払うと聞いて気を良くしてしっかり邪気を吐き、左右ねじり・・・あまり運動が出なくても耳を一杯引っ張ったらお腹がぐう~それから頭に手がいったので「穴おい」しながら活元。ちょっとの身体の動きでも頭の穴はす~っと追いかけられるものだ。お腹との結びつきが感じられそのうち自分で足もみ・・・そうこうしているうちに左4指に来て「痛い!!」硬結発見。はじく。

いっぺんに目が覚めました!

これで風邪経過終わり。
日差しがちょっと眩しかったけど、昨日車中に読んだ堀田善衛さんの「バルセローナにて」の狂女ファナ(スペインの女王)の話など思い出して買い物に出かける運転中の旦那にした。なぜならベルギーはまた無政府状態に近くなっているからだ。先回はこれが1年以上続いたけれど誰も困らなかったなあ~それでファナの話を思い出した。彼女は狂っている90%と正気10%で内乱状態にあったスペインを何もしない事と不決定によってその後息子のカルロス(カール)1世につないだのだ。
46年間もの間塔に幽閉されながら・・・・

堀田さんの本は昔よく読んだのが今読み返してみてもっと納得できることが多い。60歳過ぎてスペイン田舎生活をはじめられた。年齢も同じになってきて共感する部分も増えたのかもしれない。
スペインの寒村アンドリアン村での老人たちの話。そのぼそぼそ話を決して問いかけるのではなく向こうが口を開くまで待ってひたすら聞く事で文章になさった。ファナ王女の話の他にもシシリアという国の不思議さ・・・フェニキア、ギリシャ、ローマ、イスラムありとあらゆる文明が来ては神殿を作っていったが庶民には全く関係なかったという「宗教とは石か?」と思ったイタリア老人の言葉が面白い。塩田とはかくも酷なところで皆最後にはそのあまりの白さと太陽と塩のせいで脱水状態が続き失明するという。それを逃れるためにスペイン内戦に加わった。しかし一体誰が誰と戦ったのか?その実情・・・

「美しき(うるわしき)もの見し人は」の本の中でアルハンブラ宮殿のすばらしさを色々な世界中の宝石と言われる建物に比べてたたえる。私もグラナダに1週間滞在した時訪れたが「結構小さい華奢なものなんだなあ」と思った記憶がある。石の建造物の威圧的なところがない。堀田さんは女性らしいという。女の人の体に惹かれてまた次の暗闇を過ぎるとそこにはまた次の美女が・・・と転調するような音楽にも比較される文章で光と闇の、その中で織りなされるハーレムの美しさが目に浮かぶ。
ガウディのサグラダファミリア、聖家族教会はバルセロナの街の観光名所だが一体どれだけの信仰心でこれらを作ったのか?作り続けるのか?
北京の天壇。そこの円丘では捧げものとして実にたくさんの動物がいけにえにされたという。そしてそれは冬至の日の朝4時に始まるという。ものすごい寒さの中大理石に座る人も大変だ~~大バーバキューという彼の発言が面白い。
2年前に江の浦にある観測所、杉本博司の作った美術館を訪れた。ストーンヘンジから石舞台から茶室からギリシャ劇場からなるこの場所はトンネルの向こうに冬至にぴしーっと日があたるという。マヤの文明、ストーンヘンジの石舞台も古代の人々の太陽、空との関係が綿密かつ正確であった事を示している。
次の異民族交渉の節に至ってはふむふむ、と全く同感だ。奈良の斑鳩の里が日本人のふるさとというがあれはすべて外国から到来したものだろうに、というのが彼の説である。シルクロードへのあこがれは子供の頃からあった私は2011年のトルコ旅行以来やはり、イラン、ペルシャ、ゾロアスター教などと聞くとまさに血沸き肉躍る。その終点が奈良の法隆寺なのだ。

風邪をひいたせいか、頭の回廻りがよくなり話がつきぬ私に旦那は「お前きのう本当にマストリヒト行ってきたのか?アムステルダムに行ってなんか打ってきたんじゃないか?」と言われてしまった!?

さて外に出ての買い物・・・クリスマス前最後の土曜日となれば大変な人手で混む事必然!日本の大みそかと同じだ。しかしプレゼント購入で混むかと思った電気店はほとんど誰もいない。ワイン屋は少し多いぐらい。街の中はあまり人がいない・・・!!
ニュースでは昨日から7万9千人が飛行機でどこかに出かけたと報じていた。家で静かにクリスマス、その前4週間はクリスマスに向けての教会でのミサ、賛美歌、静かに祈るといったキリスト教の習慣は生活の中になくなりつつある
「キリスト教が崩れて行っている事がヨーロッパ最大の危機です」と言っていた知人がいる。
私が恩恵にあやかっているのはキリスト教のためにたくさんの音楽を書いてくれたバッハさんだ!その大いなる信仰心に心から感謝と脱帽です。
今年もブランデンブルグ全曲をやり、春にはマタイ受難曲にはまり、バッハのコンチェルト、管弦楽組曲を夏に、ソロをロイ先生の追悼会に弾き、そして12月にはマストリヒトでのバッハプロジェクトで生徒の伴奏をしてまたボリス・ベルキンとダブルコンチェルトを演奏するなど随分お世話になった。
私にとってはヴァイオリン、それが信仰かな?

どの宗教にも属していないが年が改まる大晦日の除夜の鐘はしみじみ聞きたいと思う。
12月4日私の誕生日にマストリヒトで一人ホテルに泊まっていたら12時ちょうどに裏の聖母教会で12回厳かに鐘がなった。私にとっての除夜の鐘のようで思わず正座して聞き入った。

皆さま良い年をお迎えください。
 
2018年12月22日ブリュッセル

















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