宝来館-バッハ

チェコのクラステレックから24時間かかって仙台についた。ここで2泊して今日は釜石でやはり同じバッハの演奏会だった。
湿気と暑さが凄い。
ヨーロッパでも2週間前35度だったので暑さには慣れているし日差しの強さも大丈夫。しかしながら湿気の重たさ・・・はず~ンときて空調に慣れていない体は熱くなったり冷えたりとだんだんくたびれてくる。時差の眠れない明け方、悶々としてついに朝9時、10時になっても一睡もしないで電車に乗った。こういう一日が時差調整の際必ずある。それが演奏会の日の前だったりすることもたびたびだ。
チェコの演奏会の素晴らしい余韻を味わう事もなく、また地獄に突き落とされたような試練だ。

しかしながら人間の体と言うのはうまくできているもので新花巻で思いがけなくわざわざ寄ってくれた平佐マネージャーの顔を見たり、田村さんと笑いっぱなしの珍道中をしているうちに大丈夫になってくる。
新釜石教会は復興からやっと建て直しが終わったところで初めての演奏会だという。
気にしていた湿気も暑さもそれほどではなく対応しようがある。
時刻も迫って・・・お客さんが入ってくる。
バッハのソロのみの演奏会をここで行う事もかなり勇気がいるのだ。

ちょっと解説など加えながら・・・被災された方々の連続するご苦労を考えると「ここまで復興されておめでとうございます」と言う言葉が出るが「頑張ってください」とはなかなか言えない。もうず~っと頑張ってきておられるのだ。「それでも頑張るしかないんです。」とおっしゃる・・・
ホールは響きもよい。

終わって・・・「なんだか遠くに連れてってもらいました」と言っているお客様がいらした。
「クラシック音楽を聞いて初めて感動しました」と言う方。嬉しいなあ~

美味しいお寿司屋さんのあと宝来館到着。昨年春に子供たちを連れてきた。ブリュッセルの今年の復興プログラムには左門が海を見ている後姿を載せた。
おかみさんの岩崎昭子さん、どれだけ大変な思いをして改築なさったか、素晴らしいものだ。出来立ての部屋の気持ちよい事!
着くとすぐにほとんど布団に倒れこみそうだったのだが「お風呂いいですよ」と言われ、弁財天と書かれた大浴場に向かう。もう夜も遅くてお客さまは私ひとり!見ると露店風呂があるではないか!
すっかり嬉しくなって外に出る。暑さもそれほどではない。松林と数日前チェコで味わった小川のせせらぎではなく、今度は潮騒を聞きながらのお風呂とは私にとってこれほどのご褒美はなかった!
熱くて居眠りする事もなくその日は無圧布団でぐっすり。またまた休養させてもらいました。
次の朝もおかみはお客様相手に津波の話を繰り返しておられた・・・「もうDNAに入ってるんです。昭和8年の三陸沖地震、それから戦時中は艦砲射撃を受けました。30年して昭和27年十勝沖地震、そのあとまた30年後にチリ地震・・・津波のあとも射撃のあともな~ンにもなくなって焼野原になるのは同じです。でもね、私達頑張ってます。夏には子供たちを呼んでいろいろ体験してもらってます」とおっしゃる。一体どれだけの根性とまた哲学を持ってあの笑顔を見せてくださるのだろうと頭がさがるばかりだ。
二人で海まで行って昨年左門がしゃがんでいた場所で「定点観察」と写真を撮った。

これからたくさんお客様が来てくださるよう切に祈りたい。

実家にかえり・・・またバッハを仕込んでいる。あと2日で録音だ。湿気のすごい部屋は仕方ないから除湿器にクーラーにサーキュレーターと3つもの電気製品を使って心地よさを出すしか方法がない。ヴァイオリンがなければ体は湿気にも慣れていきたいがそうもいかない。楽器の調子が悪くなったりはがれたりしたら大変だ。

ブリュッセルは9階に住んでいるので外の景色と言うと空との対話が多くなる。
ここはまるでジャングルのような下を見る。またまた上橋さんの本、地のトロガイ、アルト・バルサ、少年チャグム、そしてもっと高い木、その間のナグム、あわいの世界(あの世とこの世の間のような場所)や木霊達、ひらひらと舞う蝶々~~


プラハの方が乾燥していて石の教会で木のヴァイオリンを・・と3つも下見をしたにもかかわらず相模湖ホールで夏に取る羽目になっているが今このジャングルを見ていて「あ、これもありかな」と思った。

ヴァイオリン一丁抱えて旅をする・・左門が12歳の時に書いた「私のきれいな星」と言う詩に道子が絵を付けた。それが今度春秋社から出る「ヴァイオリニストの領分」の表紙になった。
彼の詩の内容は「夏のある日、リュックサックひとつにみ~んなの思い出を詰めて旅に出よう。僕の愛する人をさがしに・・」というもので最後は「起きなさい!!という声で目が覚めた」というものだが、くしくも本当に道子、左門二人ともこの9月から独り立ちする事になった。道子はエラスムス交換留学でロンドンへ。左門はマストリヒト大学の経済だ。独り暮らしにワクワクしている彼らとそれこそ「ブリュッセルに帰っても子供たちいないなあ・・」の寂しさは隠せない私だ。

バッハはお話です。
私も「連れて行って」もらっています。
是非CD聞いてください。
                         2015年7月東京にて




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